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特別対談

新たな価値を創造するトップイノベーターたち

さまざまなジャンルで「イノベーター」と呼ばれるキーパーソンをお招きして、"イノベーション"が創り出す価値とその重要性を紹介してゆく連載対談企画。
第十回は、独自の技術「モチベーションエンジニアリング」によって、働く人と組織に変革をもたらし、社会の活性化に貢献している株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役社長の坂下 英樹さん。

2000年の設立以来、「モチベーション」という全く新しい視点で社会に新たな価値を生み出してきた坂下さんに、創業時の想い、そして「生産性」や「利便性」が重視される時代に私たちが真に大切にすべきことについて伺いました。

戦略や技術は単なる手段。常に主体は「個」と「組織」にある

「伝える」のその先、「伝わる」を叶えるモチベーションテクノロジー

川崎 2000年の創業以来さまざまなサービスを提供していらっしゃいますが、そもそも「モチベーション」にフォーカスしたサービスをスタートしたきっかけはどこにあったのでしょう?

坂下 創業当時は外資のコンサル企業が目立ち始めた時期でした。コンサルタントは理屈やデータを重視し、立派な戦略を策定・提案します。しかし、どれだけ練り上げられた案があろうと、結局はその組織で働く人やチームの想い・アクションと連動していなければ、成果につながらない。

そして同時に、IT技術の存在感が急激に高まっていた時期でもありました。デジタルで効率的なコミュニケーション―例えばメールなどですが、「送ったものは全て伝わっている」かのような誤解が生まれていることに、私は違和感を覚えていたんです。「伝える」ことと、「伝わる」ことは違う。
そんな気づきが重なり、“想いが伝わり、気持ちが動き、行動に表れて初めて成果が生まれる”という普遍的な流れを実感するようになりました。「伝える」ことがインフォメーションテクノロジーなのであれば、「伝わる」ことはモチベーションテクノロジーと言えるのではないか。社会に価値を生み出すには後者こそ必要なのではないか。こんな想いが、創業の時からありました。

川崎 しかし、当時はITバブル全盛期、同時にMBA的思考などがメジャーとなり、「チーム」よりも、いかに「個」の能力を効率的に高めていくかという時代にあったかと思います。そのような時勢で、お客さまの反応はいかがでしたか?

坂下 決して良いとは言えませんでした。「言っていることはわかるが、効果はどうなんだ」と。しかし、中には深く共感してくださる企業もあったことは確かです。幸い、同時に行っていた採用コンサルティングサービスの業績は安定していましたので、これを売上の軸としつつ、「モチベーションエンジニアリング」の拡大を模索しました。

川崎 今では確固たるブランドを築き上げている御社ですが、ここに至るまでにどんな変化があったのでしょうか。

坂下 さまざまな局面がありましたが、私個人にとってのブレークスルーはリーマン・ショックでした。
当社でも経営のスリム化が課題となり、私も依願退職者の面談を担当することになりました。しかし、社員と話をしながら、「ここで社員を退職させてしまうようでは、この会社に未来はないんじゃないか」と思ったんです。この状況を打破するためには、自社の業績を上げるしか方法はない。そこで、未曽有の不況も関わらず業績を上げている企業の経営者に積極的に会いに行きました。すると見えてきたのが“お客さまが本当に求めていることだけ“に着目し、追求している企業は不況知らずで成長しているということ。
お客さまがコンサル契約を通じて真に叶えたいのは業績向上や事業拡大です。そこで、「モチベーションエンジニアリング」によってお客さまの“業績向上”に本気でコミットしようと決めました。そのためにもまずはターゲットを絞り、心から共感してくれるお客さまのみに集中して質の高いサービスを提供することに決めたのです。

川崎 当社のサービス「バリューチェーン・イノベーター」が生まれたのも、まさにリーマン・ショックがきっかけでした。経営者ではなく、エース社員たちによって“お客さまが本当に求めているもの”、“私たちが本当になりたい姿”を導き出してもらったんです。ここにあったのは膨大な市場データでも、難しい戦略でもない。社員の想いでした。
同じく、サービスコンセプトに共感いただけるお客さまとの取引に注力し、採用においても、サービスに共感してくれた方のみを採用しています。

坂下 事業を進める上で、社員の共感性は非常に重要ですね。私は「言行一致の経営」を心掛けているのですが、自分たちができないことはお客さまに提案できないと考えています。つまり、お客さまの組織に変革を起こすには、当社の組織が活性化していないと何の説得力もない。当社が提供している組織の診断サーベイでは組織状態が偏差値化されるのですが、その数値(エンゲージメントスコア)は常に80~90あり、社員の理念やサービスへの共感性はお客さま企業と比べてもトップレベルです。「伝わる組織」がしっかりできていれば、どのような戦略を描いたとしても成功の道を歩めると感じています。

安心して挑戦できる環境が、大きな変革のきっかけになる

川崎 「伝わる組織」を築き上げ、組織と個人に変革を起こすのは自社においても一朝一夕で行えることではないと思うのですが、さらにそれをお客さま先でも行う際、お客さま先の社員の本気をどのように呼び起こすのでしょうか。

坂下 これは当社社員の強みでもありますが、一人ひとりが「組織論」をかなり深く勉強しているからこそ、お客さま先にも成果をもたらせるのだと思います。
組織論において重要なポイントは3つあり、一つ目は「共通の目的理解」。社員のどこまでが目的をどの程度理解しているのかを観察します。二つ目は「中間管理職」。メンバーに目的やビジョンを伝えていく彼らの思考を会社のベクトルと合わせていく。そして最後に「人材採用」。そもそも入社の段階で、その企業からのメッセージが響いている人を採る。これらを重視してサービスに反映しています。

川崎 今の日本では雇用流動化が叫ばれながらも、なかなか“中間管理職”という人たちが自身のポジションから動く機会は少なく、彼らのマインドを変えるのは難易度が高いのではないかと感じますが、変革していくためのポイントはあるのですか?

坂下 こちらも大きく3つのステップを踏んでいます。
一つ目は「解凍」。おっしゃるとおり、特にその企業で長く働かれた中間管理職の方々は思考が凝り固まっていることもあり、その固定概念を溶かすことが必要です。役割期待との相対化を図り、これまで見えていなかった部分を見つめることで自身の意識に揺らぎをかける。
二つ目は「変化」。固定概念を覆した上で、では何を目指すのかと目標を掲げます。ここで重要なのが挑戦への動機づけとともに「安心」を提供すること。変化や挑戦には恐怖が伴うものです。安心してチャレンジできる環境や支援があると理解してもらうことを大切にしています。
三つ目は「習慣と集団」。一度で終わってしまうと、その場ではやろうと思っても、続かないんですね。そこで定期的な面談を設定して習慣化すること、そして自分一人だけでなく組織全体でやる=集団化を促進することで定着化させます。

川崎 挑戦する価値と安心を共に提供するというのは興味深いですね。ときに社会は強制的・脅迫的にチャレンジを強いてしまうことがある。安心して挑戦するという心境を創り出すことで、これまで固執していた考え方や価値に変化を生み出すことができるんですね。

どれだけ技術が革新しても、中心にいるのは人と組織

川崎 世間では「イノベーション」という言葉が溢れ、これまでにない新しいものを生み出さねばという機運が高まっています。多くの組織の変革に携わってきた坂下さんが考える、「イノベーションが起きやすい企業の特徴」は何でしょうか。

坂下 一言で言うと「コミュニケーションが活発で賑やかな企業」ですね。個々が自身の視野の中に閉じこもってしまっていると、イノベーションは起きづらい。人は活気のあるところに集まります。

川崎 たしかに、イノベーションは0から生み出すものというよりは、これまで存在していたのに出会うことのなかった「知」と「知」が重なったときに生まれると言います。ただ机に向かって自身の業務をこなすのではなく、個々の知識やスキル、想いが活発に交差するような組織こそがイノベーションの起きやすい組織かもしれません。
私たちの社員もお客さま組織にとっては“出会うことのなかった知”であり、オープンイノベーションの起爆剤となるべく、主体的に提言しています。

坂下 組織活性化において非常に重要な考え方だと思います。さらに今後は表層的なコミュニケーションではなく、互いに「伝わること」に重きを置いたコミュニケーションが重視されると考えています。それは、もっと「人」を知り、「モチベーションの源泉とは何か」を探求すること。
生産性を高めるためにAIやロボティクスなどの技術が用いられますが、それらはあくまで手段です。目的の主体は常に人と組織です。それらがバラバラでは、どれだけ多くの便利な手法があっても、イノベーションは起きません。
御社も今後、さらに大きなチャレンジを積み重ねていくことと思います。これからも個と組織、そして経営に変革をもたらし、現場から産業界の発展に貢献していきましょう!

坂下 英樹(さかした・ひでき)さん プロフィール

株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役社長

1967年生 群馬県出身。
株式会社リクルート入社。
人材総合サービス事業部、組織人事コンサルティング室を経て、2000年株式会社リンクアンドモチベーション設立に参画、同社取締役就任。2013年代表取締役社長就任。

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