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特別対談

新たな価値を創造するトップイノベーターたち

さまざまなジャンルで「イノベーター」と呼ばれるキーパーソンをお招きして、"イノベーション"が創り出す価値とその重要性を紹介してゆく連載対談企画。
第八回は、世界初の家庭用体脂肪計を発売して以来、全世界累計販売台数・シェアNo.1を誇る株式会社タニタの創業ファミリーであり、現在はヘルスケアオンライン株式会社の代表取締役を務めながら、日本全国で講演を通じて数々の成功法則を伝える谷田 昭吾さん。

「危機的状況から生み出されたイノベーション」を経験した者同士による今回の対談。危機脱却の背景には社員への想い、そしてお客さまへ「満足」を超える「感動」を届けたいという情熱がありました。

実現させる想い、そして社員との信頼関係がイノベーションを創り出す

危機的状況での気づきが生み出した新製品・新サービス

川崎 当社が提供する「バリューチェーン・イノベーター」は、2008年のリーマンショックの影響による危機的状況下で「今こそ我々は何屋になるべきなのか」を追求し、社員の熱意と知識・経験を駆使して生み出されたサービスです。
 谷田さんもタニタ社で大きな転機を経験されたと伺いました。そこで得た経験についてお聞かせください。

谷田 当時のタニタ社は業績の悪化による三期連続赤字という低迷期が続き、存亡の危機を迎えていましたが、当時の代表はそうした状況下で「世界一になろう」と言い始めました。

 しかし、既存の体重計から派生した産業用の計量器を作る、販路を学校に広げる等、さまざまなチャレンジを続けるも状況は好転せず、「お客さまが本当に求めているものは何か」を、もう一度しっかりと考え直すことにしました。
 そこで、実はお客さまは体重を計ることに価値を置いているのではなく、健康管理の一つとして体重計を使用しており、「体重」自体に価値があることに気付いたのです。
 さらに専門医の方による「肥満は体重(重さ)ではなく脂肪(の量)である」という衝撃的、かつ運命的な言葉が大きなきっかけとなり、後にタニタが誇るオンリーワンの体脂肪計付き体重計が誕生しました。
大きな危機をきっかけに、提供すべきサービスコンセプトの変遷がなければ、今のタニタは存在していないと思います。

川崎 紆余曲折を経て新たなコンセプトに気付き、そこから世界シェアNo.1へと躍進するまでの過程も大変興味深いです。

谷田 このときポイントとなったのは5つの行動でした。私はイノベーションを生み出すポイントと考えています。
一つ目は新しい人と『つながる』こと
二つ目はその人の発言に対して『質問する』こと
三つ目は『関連付けて』思考すること
四つ目は『実験する』こと
そして最後、『観察する』ことです。

 肥満の専門医と『つながり』、その専門医の発言に対して「体重ではなく脂肪が重要」の意味を理解するために細部まで『質問』しました。
 そして強みであった体重計と脂肪を『関連付け』させ、体脂肪計付き体重計を作ることはできないかを考えました。
 その後、開発に進める段階で、当時の技術責任者からは「そんなモノは作れません」と言われてしまいました。思いきって、自由な発想を持った新人に体脂肪計の開発をゼロから全て任せてみたのです(『実験する』)。発売後もお客様からのいろいろなご意見を頂き(『観察する』)、現在のような体脂肪計は生まれました。

 

 新しいイノベーションを生み出すには、ゼロからの発想だけに囚われず、既に存在するモノの価値を見出し、その価値をより発揮させるために新たなモノを結びつけ、転用することも大事だということを痛感しました。

ビジョンの実現に必要なのは信頼関係とアイデンティティの共有に尽きる

川崎 まさに当社の「バリューチェーン・イノベーター」はエンジニアの派遣業とコンサル業を組み合わせた新しいコンセプトです。しかし、どうやったら3,000名以上の社員全てに浸透させることができるのかは、とても難しいところです。
 社員のみなさんは抵抗なく新しい製品やビジョンに賛同されたのでしょうか?

谷田 ある程度の時間は必要でした。どこにでもあるような施策でフォロワーシップが育つほど簡単ではないため、先代の代表はコミュニケーションを大切にし、社員の意見に耳を傾けて、それら一つひとつを形にしてきました。例えば「ロッカーが欲しい」という声を聞けば翌日には手配していたという話もあります。自分が求めたことがきちんと受け入れられ、実現される体験をすることでそこには強い信頼が生まれ、「あの人のためなら」という感情が社員たちに次々と芽生えはじめた訳です。
 また、人にはそれぞれ型や癖があります。例えば、情熱的に目標を語るのが好きな人もいれば、ロジカルに問題解決を進めることが得意な人もいます。それぞれに適したコミュニケーションをとることも、個々が持つ能力を最大限に発揮しつつ、同じ目標に向かう上で非常に重要です。

川崎 当社でも「バリューチェーン・イノベーター」を社員に浸透させるために、どのように進めたらいいのかを示した「基本のプロセス」を作りましたが、その型のおかげで成果を出す社員もいれば、型を嫌う社員もいました。お客さまの課題を解決するという目標は変わらないので、さまざまなタイプの社員がいることを前提にした伝え方や説明の仕方を検討し実行することはとても重要ですね。

谷田 決して型がすべて悪いわけではなく、良い型を作って成功体験をさせてあげることも大切です。ビジョンを浸透させるためには、アイデンティティレベルの共有もすごく大事。
「バリューチェーン・イノベーター」が生まれるきっかけになった「我々は何屋になるのか」と社員のみなさんに問いかけたことは大変素晴らしいアイデンティティへの投げかけだと感じます。

現場の社員が自ら考え、生み出したサービスが成功しないはずがない

川崎  「何屋になるのか」を考える際、私から社員に一つだけお願いしたことがあります。それは「分析」よりも「主観」を大事にしようということ。
純粋に「こうなりたい、こうなるべきだ」、という想いをまず大事にして欲しいと伝えたんです。最終的には理屈を抜きにしたワクワク感から「バリューチェーン・イノベーター」は誕生しました。
サービスコンセプトを初めて聞かされた際、経営陣の思想だけでは絶対に辿り着けなかっただろうと身震いしました。

 同時に社員が本気でお客さまを第一に想っていることを知り、深く感動しました。
経営者としては社員が創ったモノをそのまま会社のビジョンにするのは本来間違っているのかもしれませんが、私の信条は“まず社員を信じること”。その決断は正しかったと今でも思っています。

谷田 とにかくお客さまを想う気持ちが詰まっているサービスですね。
 また、社員のみなさんに会社の存続を左右するサービスを一任し、そしてそれが会社のビジョンにもなる体験を経て、社員と経営陣との間に深い信頼関係が生まれたのではないでしょうか。
群雄割拠なこの時代、本当に社会から求められる人や企業しか残ることは出来ません。
タニタの場合もお客さまが求めているものを追及していなければ、大きな変革は生まれず、今もただの計り屋だったかもしれません。

 「お客さまの課題を解決をしたい」「経営にイノベーションを起こしたい」という二つの強い想いによって創られたサービスは産業界の中で必ず大きな成果を生み出すと思いますし、今後リーマンショックを超えるような世界恐慌がもし訪れたとしても、VSNさんは間違いなくそれを乗り越えられる強さを備えている組織だと実感しました。

谷田 昭吾(たにだ・しょうご)さん プロフィール

講演・研修講師/ヘルスケアオンライン株式会社 代表取締役

体脂肪計で世界一となり、最近は社員食堂でも話題になった株式会社タニタの創業ファミリーであり、現筆頭株主。同社の営業・新規事業・新会社立ち上げ、海外における役員経験を経て独立。父・谷田大輔氏(株式会社タニタ前代表取締役社長)の最も近くで、公私にわたってその経営学を学び、赤字企業だったタニタを成長させた「タニタの成功法則」を受け継いできた。
新会社立ち上げの中で、心理学に興味を持ち、2011年NLPの資格を取得し、現在ポジティブ心理学トレーナーも務め、天才達の成功法則を心理学の観点からも分析している。講演では父から学んだ経営学を客観的視点で語り継ぐと同時に、独自で学んだ最新の心理学・NLPやポジティブ心理学の視点でその成功要因を分析し、ビジネスや日常生活で応用できる形式で解説する。

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