• このエントリーをはてなブックマークに追加
特別対談

新たな価値を創造するトップイノベーターたち

さまざまなジャンルで「イノベーター」と呼ばれるキーパーソンをお招きして、"イノベーション"が創り出す価値とその重要性を紹介してゆく連載対談企画。
第七回となる今回は、富士フイルム株式会社 先端コア技術研究所の副所長を務めていらっしゃる 中村 善貞さん。富士フイルムにおける"第二の創業"を牽引した化粧品ブランド「アスタリフト」開発プロジェクトをリーダーとして推し進めた方です。
日本を代表するイノベーション事例として広く語られる「アスタリフト」開発においても大きな転換のきっかけとなった「オープン・イノベーション」の価値や、イノベーションを生み出せる組織の在り方などについて、両社における意外な共通点の発見にもつながる対談となりました。

イノベーションの"共通点" ―自社の価値を問い続ける―

顧客の声とともに新たな価値を創りだす

川崎 富士フイルムさんが化粧品事業に参入される、と報じられたときのことは今もよく覚えています。ちょうど私が参加したセミナーでも講演をされていて、「なぜフイルム事業から化粧品事業に?」と驚いたものです。デジタル化が進み、主力であったフイルム事業に陰りが見られた。その中で"第二の創業"として新規事業を展開するにあたり、メディカル・サイエンス分野拡大における一つの核となったのが化粧品への参入だったと。
そこで、多くの記事やインタビューなどでも拝見したのが、ヒットのきっかけは"市場の声"にあったということ。ぜひこの点を具体的にお聞かせいただけますでしょうか。

中村 第二の創業を宣言し、積み重ねてきた技術資産を新規事業に活かすこととなり、はじめは技術者らしく、「この技術はこのような商品に転換できそうだ」と技術ベースで議論を進めていくことが多くありました。しかし、「化粧品なんか売れるものか」と社内では懐疑的意見も多かったように思います。
そこでどのような商品を創れば、お客様に買って頂けるのか、顧客の声を積極的に聞きました。お客様が求めているもの本質、お客様自身が気づいていない本当に欲しいものは何かを考え、スモールチームで柔軟に対応していきました。

川崎 新事業のローンチでは、技術もお客さまの声も非常に重要だったと思うのですが、歴史的なヒットを生み出すにはお客さまの期待を「超える」ものが必要になると思います。今まで富士フイルムさんで培ってこられた写真の技術が全く異なるプロダクトに活かせることなんて、化粧品のユーザーからすると想像もつかないことですよね。その状況でどのような方法でユーザーの期待を超える商品が開発できたのでしょうか。

中村 おっしゃるとおりで、あのときの大きな転換はまさに「お客さまが欲しいものを、そのまま作ってもダメだ」ということでした。期待を大きく超えるものでないと、「これまでになかった」「こういうものが欲しかった!」という印象にはつながらないのです。
単に市場の声を集めるのではなく、そこから「私たちなら何ができるのか」に目を向ける、ということが重要でした。自分たちの価値を客観的に捉え、どういった点が差別化できるかを考えた結果、「富士フイルムだからできる」という商品を作り、そして高い訴求力を創りだすことができたのだと思います。お客さまと共に商品を企画・開発したというイメージですね。
お客様の声の小さな変化に気づき、従来の技術ベース型から、お客さまとともに生みだす共創へとスタイルを大きく方向転換ができたことが、この事業の成功要因の一つだったと思います。
「お客さまにとって、この商品の価値はどこにあるんだろう」と考え、それを基本に商品企画・開発のやり方を根本から変えてしまう、ということがイノベーションにおいて非常に重要だと考えています。

川崎 顧客の期待を上回る価値を提供するときには、ただその声に耳を傾けるのではなく、提供する側が自身の強みに改めて立ち返る必要がある、ということですね。中村さんの共著書である「図解実践 オープン・イノベーション入門」にも「顧客との共創」による提供価値の最大化について語られていますね。

自身の価値に徹底的に向き合うことで「イノベーション」が生まれた

川崎 大変おこがましいのですが、実は、弊社の提供するサービス「バリューチェーン・イノベーター」が生まれたきっかけと、とてもよく似ていると感じました。
リーマン・ショックを機に危機的な状況に陥り、私たちは今後、「何屋」として社会に価値を提供していくのかを改めて考えようと、現場のエース社員を集めて長く激しい議論が行われました。しかし議論は混迷し、暗礁に乗り上げます。そこでふと、そのメンバーの一員であり、リーマン・ショック後で次々とエンジニアの契約が解除されている状況にも拘わらず、お客さまとの契約が継続していた現場エンジニアが気づくのです。「なぜ私たちはこのような状況下でも解約されないのか?」と。自身より技術レベルの高いエンジニアが契約を解除される中で、なぜなんだ、と。その気づきをもとに生み出されたのが、エンジニア派遣とコンサルティングの両方を兼ね備えた新しいサービスだったのです。

中村 自身や自社の価値を客観的に捉えることはなかなか難しいと思います。そこに気づき、やり方を変えるということが重要ですし、それを実現されたことが素晴らしいですね。しかも現場社員のみなさん自ら、という点も実に重要ですね。

川崎 事業形態や時間軸、場所が違えど、イノベーションが起こる瞬間には同じような事象が起こっているのかもしれませんね。
ただ、私たちも実感しているのが、このサービスが受け入れられるかどうかはお客さまの体制にもすごく影響されるということ。お客さまの課題を指摘し、変えていきましょう! と提案するので、本質を捉えれば捉えるほど、お客さまにとっては「耳の痛い話」となる。幸いにも弊社でお取引しているお客さまには大変嬉しい評価とともに受け入れていただいているのですが、「一緒に変えていこう」という文化がないと、取り組むことができません。

中村 本当に求められる価値を提供しようとしたときに、第三者の視点を入れることでより素晴らしいものが生まれることが多くあります。むしろその力を活かさないと、本当に求められるものはできない時代になっているのではないでしょうか。
また、私自身もさまざまな業務を外部の方々にお願いすることがよくあります。ただ、「委託します」という形だと、発注側が考えている以上のものは到底できない。シナジーを生み出そうとするなら、アライアンスを組んで、共に創り上げましょう(協創)、という考えが必要になります。VSNさんでは「バリューチェーン・イノベーター」のサービスを通じてそれを実施されていると思います。

イノベーティブな組織に求められる"経営の覚悟"

川崎 社内でもイノベーションマインドがしっかりと浸透してきたと感じることはありますか?

中村 正直なところ、まだ十分ではないと感じることもあります。新たな価値を引き続き生み出していくためにもいろいろな仕掛けをしているところです。

川崎 よく、欧米人に比べると日本人はとても保守的だと言われます。技術力で劣るかといったら決してそうではないのに、新しいことにリスクを取ってチャレンジしていくという気持ちが弱いのかもしれません。

中村 目まぐるしく変化していく今、何もしないことの方が大きなリスクではないでしょうか。日本の大企業はまだまだ体力があるので、社員一人が何かチャレンジし、失敗しても大きなことにはなりまりませんよ(笑)。だからチャンスだと思って、もっとリスクをとってチャレンジすれば良いと思います。
あと、最近は周りの評価を過度に気にする人が増えてきましたね。昔は今ほど短期の成果が問われなかったこともあって、どう評価されるかということもあまり気にせずに自分で考えトライアンドエラーを繰り返していました。今の人はそれが苦手なのかもしれません。

川崎 社員が臆することなくチャレンジできる評価制度も大切なポイントですね。そういう意味では経営者の覚悟が問われているのだと思います。社員に対して短絡的な業績アップへのアクションだけを求めるのではなく、中長期的にいつ成功するかわからないけれど、リスクをとってチャレンジすることの意義を語り続けることが必要です。

中村 そうですね。今、カリスマ性のある経営トップの方が、そのマインドを持って社員を引っ張る面白い企業が求められていますし、増えていくと思います。社員一人ひとりがイノベーティブな発想を持って自主的に動くこと、そしてそれを見守り、そして任す経営スタンス、両方があってこそ、はじめて組織的なイノベーションが生まれるのだと思います。

川崎 弊社も、2011年に掲げた"第二の創業"により生まれたサービスで、社会に大きなイノベーションをもたらしていきたいと思います。

中村 自身の価値に向き合った社員の方々から生まれたサービス、共感する部分が多く、私も大変参考になりました。今後も注目しています!

中村 善貞(なかむら・よしさだ)さん プロフィール

富士フイルム株式会社 R&D統括本部 先端コア技術研究所 副所長 兼 経営企画本部 イノベーション戦略企画部 技術マネージャー

1958年生まれ。京都市出身。
1984年に京都大学大学院工学研究科終了後、富士写真フイルムに入社。写真材料用素材ならびに商品開発に携わる。
2002年、新規事業開発本部にて新規事業・新商品開発を担当し、2006年、ライフサイエンス研究所にて機能性化粧品開発リーダーに就任、「アスタリフト」の製品・事業開発を牽引する。
現在はさらなる新規事業創出のため、研究所での新規プロジェクト推進と、全社のイノベーション普及・教育を担当。
2014年度 全国発明表彰 発明賞を受賞、著書に「図解 実践 オープン・イノベーション入門」(共著、2016年 言視舎)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加