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特別対談

新たな価値を創造するトップイノベーターたち

さまざまなジャンルで「イノベーター」と呼ばれるキーパーソンをお招きして、“イノベーション”が創り出す価値とその重要性を紹介してゆく連載対談企画。
第四回はサイボウズ株式会社 代表取締役社長・青野 慶久さん。
同社に導入した数多くの人事制度、そして青野さんが自ら働きかたを変えることの背景には「世界で一番使われるグループウェアメーカーになる」というビジョンに込められた強い想いがありました。

「ビジョン」を徹底的に追求することで組織が企業を変えていく

目的を実現するために必要な制度は全て導入。信頼関係が組織を強くする

川崎 サイボウズさんは「顧客満足度調査 グループウェア‎部門」1位、また「働きがいのある会社」ランキングでも上位にランクインされていますが、さまざまな外部環境の変化やテクノロジーが急変していく中、企業としての価値も、社員のみなさんの意識も、常に高いレベルを保ち続けていらっしゃると感じます。
その原動力の一つとして、多くのユニークな制度やしくみが挙げられると思いますが、どのようなお考えでそれらを導入してこられたのでしょうか?

青野 もともと現在のような制度は全く存在していませんでした。
私自身が24時間・365日、土日も関係なく働きたいタイプでしたし、「ベンチャーなんてそれが当たり前」だという考え方でしたので、15%~20%前後あった離職率もその当時は意に介していませんでした。
しかし、私が社長に就任した2005年には離職率が28%まで上昇しました。1年に約1/4の社員が退職していったんですよ。さすがに社内の雰囲気は悪くなっていくし、そこから新たに人を補充すると、採用コストに教育コスト、人的リソースや時間もかかるので、とにかく効率が悪い。
その頃から考え方を一変させ、まずは“人が辞めないための創意工夫”をしてみよう、ということで、「取り入れて欲しい制度があれば提案して」と社員たちへ呼びかけたところ、多くの要望が挙げられました。
まぁ、みんな好き勝手なことを言ってきましたが(笑)。しかし、そこからは結果的に多くのプラス効果が広がっていきました。

川崎 考え方によっては「単なるワガママな制度」になってしまう恐れもありそうですが、社員のみなさんから寄せられた提案は全て導入してこられたのですか?

青野 一部を除いて全て制度として導入してきました。
しかし、それは単に社員を歓ばせるための施策ではなく、「サイボウズは世界で一番使われるグループウェアメーカーになる」というビジョンを実現するために必要な制度なので、目的から少しでも外れてしまうモノはすぐに辞める、と伝えています。
その甲斐あってか離職率はピークだった頃の28%から4%まで改善しました。ビジョン実現のために社員が必要だと思うものを信じ受け入れ、信頼関係の上で組織を創るほうが健全だということに気付きました。

川崎 そこまでの強いお気持ちと柱となる想いがあれば誰も文句は言えないですよね。
ビジョンへの相互理解が深まることで社員のみなさんが「依存型」から「自立型」になれたのではないでしょうか。
会社が組織を作るのではなく、組織が自然に会社を作り育てていくのですね。

自ら多様化する働き方を体現して得た多くの気づき

川崎 昨今、ワークスタイルが多様化してきたことで、それに応じた施策や制度の推進に取り組む企業が一昔前に比べると格段に増えてきていますね。
青野さんは男性としても、経営者としても前例の少ない育児休暇を自ら取得されたのは有名なお話しですが、自らが価値観を壊し、率先してイノベーションを起こすことには勇気が必要だったのではないでしょうか。

青野 多くの制度を作っても、使われないとわざわざ作る意味がなくきちんと根付いて欲しかったので、色々な葛藤はありましたが、自ら三度、育児休暇を取得しました。
世間からは大きな反響があり、多くのメディアから取材が殺到しました。
そんなことよりも実際に育児を初めて経験して「こんなにも大変なことを女性は一人でやっていたのか・・・!」という気づきの方が、私には大きな意味がありました。
実際の子育ては、想像していた以上にとても大変なことでした。
世の中には働き続けたい女性は沢山いらっしゃいます。しかし、育児が負担となることで仕事を辞める、もしくは力を発揮する機会を逃している女性も多くいるのではないでしょうか。そうした女性たちが育児をしながらも活躍できる環境を我々経営者はもっと真剣に捉え、本気で提供してあげなければ、今後は少子化も一層高まるばかりだと痛感しています。

川崎 男性が「仕事」・女性は「育児」、という古い考え方は変わり、今では広く浸透していますよね。
しかし、仰るように女性が育児をしながら理想的な働きかたを実現するにはまだまだ課題は多いと感じます。

VSNはエンジニア集団ということもあり社員の大半が男性ですが、以前よりも少しずつ女性比率が高まってきています。
ここ数年、新卒採用でいわゆる“リケジョ”と呼ばれる理系の女性を多く採用しています。特に特徴的なのが、化学等の理系分野を専攻していた学生を、機械系のエンジニアとして採用し、入社後に研修を行う採用方法です。
この方法を取り入れて機械系分野での新卒女性社員が増えました。しかし彼女たちを見ているとつくづくエンジニアという仕事に向いているな、と思います。
元々理系としての専門性が高い上に、ひとつ一つの仕事が非常に丁寧で、細かい気配りや配慮ができる。学ぶ意識や吸収力もとても高い。
そして、男性社員も周りに女性がいると、やっぱり本能的に“ちょっとカッコつけたい”と思ってしまうんですよね。
そこにエンジニアならではの「専門分野についてはあれこれと教えてあげたい」という特性が重なり、他分野出身の後輩に教えることが先輩社員の学びにもなり、お互いが成長できる効果が高まるので、今後も積極的に女性エンジニアを採用・育成し、そして彼女たちが活躍できる環境を増やしていきたいと思います。

青野 それはちょっと面白いお話ですね!
私も元々エンジニアだったのですが当時、周りは100%男性だけの世界だったのでエンジニアのみなさんの気持ちはとてもよく分かります(笑)。
他分野であっても理系の女性は理系としての考え方の土台があり、思考の幅が広いので機械系やその他分野のエンジニアにも向いているのでしょうね。
今後、エンジニアの世界でも活躍する女性が増えていくのを考えると楽しみです。

企業の「ビジョン」は単なる飾りではない。実現させなければならないもの

川崎 「世界で一番使われるグループウェアメーカーになる」というビジョンについてのお話がありましたが、さまざまな価値観を持った社員が一定以上の数になると、それを共有し合うことは非常に重要ですし、企業が掲げたビジョンは決して押し付けるものではなく、それに賛同した人が集まり、そこからいいサービスが作られていくものだと思います。
青野さんにとって、サイボウズさんにとって、「ビジョン」にはどんな意味があるとお考えでしょうか。

青野 一言で云うと、どれだけそこに「魂」を込められるか、でしょうか。
私自身がひとつ一つに最高の魂を込めること、例えば「魂を込めた会議」であれば、伝えたい言葉は伝わるし、そしてそれが自然と伝播していきます。
目指すべき柱となるビジョンを一本創ることで、多様化する働きかたにも大きな意味が生まれてきます。
企業が持つ「ビジョン」はキレイ事を並べた飾りではなく、必ず実現させなければならないものなので、何度も繰り返し、その必要性を伝えています。
代表に就任した頃はまだこのビジョンが存在していなかったので、経営が苦しかった頃は本当に辛かったですが、柱を持つことで、それ以降は苦しいことも乗り越えられるようになりました。不思議なものですよね。

川崎 「魂」という言葉、とても共感できます。
まさに経営理念・ビジョンを実現させるために企業は存在する価値があるのだと思います。

VSNでは「人財(ヒューマンキャピタル)の創造と輩出を通じて、人と社会の歓びと可能性の最大化を追求する。」というグループ理念を掲げています。エンジニアを“人材”ではなく“人財”へ発展させ輩出していくことで、産業界だけではなく社会全体の発展に寄与していくことを目指しています。

青野 簡単に実現できる理念やビジョンは企業にとっても世の中にとっても意味がありません。困難であっても、強く熱い、魂のこもった想いを実現させることで、組織の価値は高まり、社会を変えるパワーが生まれます。
業界は異なりますが、ニッポンを元気にする企業として刺激し合い、お互いのビジョンを今後も実現させていきましょう。

青野 慶久(あおの・よしひさ)さん プロフィール

サイボウズ株式会社 代表取締役社長

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。
社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。
また2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は11,000社を超える。
総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ (一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。

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