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特別対談

新たな価値を創造するトップイノベーターたち

さまざまなジャンルで「イノベーター」と呼ばれるキーパーソンをお招きして、“イノベーション”が創り出す価値とその重要性を紹介してゆく連載対談企画。
第三回は株式会社セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長 兼 CEOである小出 伸一さんをお招きし、米Forbes誌が選ぶ「世界で最も革新的な企業」に4年連続で1位に輝く同社の“イノベーションを起こし続ける企業のあり方”についてお話を聞きました。

イノベーティブな発想を生み出す企業風土

全社で取り組む社会貢献活動がイノベーティブな発想を創り出す

川崎 「世界で最も革新的な企業」として4年連続1位を受賞されている企業は他にないと思いますが、“革新的”な企業であり続けられる一番の理由は何だとお考えですか?

小出 先進的なテクノロジーの開発や新しいビジネスモデルなど、業界内で革新的とされた実例が受賞の理由として挙げられるのですが、最も重要な要素としては当社の【企業風土】だと感じています。その企業風土の中でも特徴的、かつ風土の根底となるのが、当社が創業から大切にしている「1/1/1モデル」という社会貢献活動の考え方です。

「1/1/1モデル」は<従業員の就業時間の1%を社会貢献活動に><当社の製品の1%を非営利団体に><株式の1%を助成金として非営利団体に>という指標を表しています。
数多くの社員が主体的に社会貢献活動に参加し、多忙なときでも、積極的にプロボノ※1としての活動や被災地での復興支援などに出かけ、周囲もそれをサポートします。売上や規模の拡大だけを追い求めるのではなく、“社会をより良くしていく”という企業の本質的な活動を会社全体で行っていこう、というカルチャーがあります。

川崎 全社でそれに取り組むのはすごくいいカルチャーですね。当社でもアデコグループの社会貢献活動である「Win4Youth」という活動を推し進めています。
社員の「走る」「泳ぐ」「自転車を漕ぐ」といったアクティビティの距離が、世界の若者を支援する慈善団体への寄付へつながるという活動で、日本でも一年を通じて様々な企画が行われています。こういった活動に参加することで社員の視野は確実に広がっていると感じます。

小出 おっしゃるとおりです。一日中、社内で短期的な売上と睨み合いしているだけではなく、あえて会社の外に出て、さまざまな地域社会に触れ合うことで、5年先・10年先の会社がどうあるべきか、自分自身は社会とどのように関わっていくべきなのか、という中長期的な視点で社会や人生と向き合うことができます。社会の多様性に触れると考え方も柔軟になる。そして、これらの活動は社員自らが企画し活動しているので、個人の主体性が養われます。

こういったカルチャーが社員のイノベーティブな発想を創り出し、挑戦し続けるという企業風土を形成していくのだと思います。この「1/1/1モデル」に対する社員の共感度は非常に高く、全社にその考え方が浸透できています。

お客さまのビジョンに向き合う「ビジョンセリング」という考え方

川崎 ビジネスを進めていく上で、イノベーティブな発想が生まれるような仕組みを何か導入していますか?

小出 仕組みではありませんが、当社の製品をお客さまに提案する際「ビジョンセリング」という考え方を大切にしています。「ソリューションセリング」、つまり「課題解決型」のサービスに留まらず、お客さまの「ビジョンを実現する」ためのサービスであれ、というものです。目先の課題だけに捉われずお客さまは今、何を実現したいのか、どうなりたいのかを徹底的に考え、それに適したサービスを提案します。ビジョンと向き合うことで生まれる発想が、お客さまのビジネスにイノベーションを起こしていくのだと思います。

川崎 とても勉強になります。当社がまさに今取り組んでいる「バリューチェーン・イノベーター」も「ビジョンセリング」に通じるものがあると感じます。
技術者派遣は“指揮命令のもと、言われた業務だけを遂行する”というイメージがあるかと思いますが、それではとてもお客さまを感動させることなどできません。お客さまの事業そのものに価値を生み出していくために、お客さまの目標やビジョンに向き合って自らが主体的に行動しよう、そういった強い想いで生まれたのが「バリューチェーン・イノベーター」です。
当社から派遣されたエンジニアは、お客さまが気づけないこと、気づいていながらも動き出せていなかったことに対して現場の視点と第三者的視点の両方から、組織の壁をも越えて提言し、改善に向けた活動を推進しています。

小出 非常に素晴らしい取り組みだと思います。言われたことだけをやるという「リアクティブ」な姿勢から、自ら動いていくという「プロアクティブ」な姿勢への変身は決して簡単なものではないですが、それを実践し続けているのはVSN様が築き上げてきた大きな価値だと思います。それこそが企業風土が創り出すものではないでしょうか。

また、現場の視点、というお話がありましたが、私たちのサービスも現場の声を重要視しています。それを実現できるのが「Chatter(チャター)」※2です。Chatterを使えばアルバイトも派遣社員も、組織の壁を越えて現場で起こっていることをリアルタイムで全社にシェアすることができます。誰かが何か質問したらそれを誰かがきちんと応える。必要な情報はグループ同士でシェアできる。オープンでスピーディーな対応を可能にします。

川崎 「組織を越えてつながる」、というのはイノベーションを起こしていく上で重要だと思います。当社でも全国各地に社員がいるため、「Chatter」は社員の情報共有において大変重宝しています。

お客さまの声を集め、スピーディーに反映する

小出 社内の声はもちろん、お客さまやパートナーさまの声を如何に早く集めるか、またその声をどれだけ早く開発に反映していけるかも重要だと考えています。
四半期に一度、世界の経営陣が集まる会議が行われるのですが、そこである担当から、「お客さまよりこのような声が挙がっている」と報告があるとすぐに開発責任者に確認、その翌日には問題を解決してしまう。ときには競合企業へ連絡し、そこからアライアンスの話に結び付くこともあります。もちろん開発担当者から「すぐにサービスとして実現はできない」と言われることも多いですが、それでいいんです。まずは動き出さないと何も始まらない、と。お客さまの声をすぐに反映するスピード感を今は重視していますね。

また、当社では顧客開拓のプリセールスエンジニアよりも、お客さまのサポートや提案を行うポストセールスエンジニアの方が多いんです。
お客さまはどういったことを実現したいのか、どのような使い方をしていて、どんなところに不便さを感じているのかを徹底的にヒアリングしながら、活用されていない機能はどの機能なのかなども深く分析し、どうしたらお客さまのビジネスを最適にサポートができるかを提案します。お客さまの声を集めてスピーディーに、確実にサービスに反映させていける企業が、イノベーションを生み出せる企業であると言えます。

「人財」が自然に育つ企業になるために

川崎 最後に小出さんが考える今後、世の中で必要とされるエンジニア像を教えていただけますか。

小出 ひとつの技術だけに特化したエンジニアより様々な分野の技術をまとめ、新しい価値へと変換させていくアグリゲーション能力に長けたエンジニアが重宝されるのではないかと思います。
時代をけん引していく人財が生まれるかどうかは、企業が彼らにどのような環境を提供できるのかがとても大事だと思います。その企業にいれば、“人は自然に育っていく”、そんな器を用意することが必要です。
VSN様も経営理念で「ヒューマンキャピタル(人財)の創造と輩出」を掲げていますが、私が以前代表を務めましたヒューレット・パッカードでも、「ヒューマンリソース」という言葉は絶対に使いませんでした。人は「資材」ではなく「財産(ヒューマンキャピタル)」だと。 セールスフォース・ドットコムに来て最初に「さすがだなぁ」と感じたのは、「ヒューマンキャピタル」も「ヒューマンリソース」という言葉も存在せず、人事部に該当するのは「エンプロイーサクセス」という部署名でした。エンプロイー(従業員)のサクセスを常に考えられる企業、その風土が人財を育てていくのです。

川崎 部署のネーミングを見ただけでもそこに企業の想いが反映されていますね。
さまざまな分野をまとめ新たな価値を、という点では当社では現在、次期の中期経営計画の策定が進んでいますが社員からも広く意見を集っています。その意見の中には「VSNで“ものづくり”がしたい」という声が多く挙がっています。
当社はIT分野だけではなく、メカトロニクス、エレクトロニクス、バイオ・ケミストリー分野のエンジニアがいます。小出さんがおっしゃったような、多分野のエンジニアが技術や知識を結集させることで、新しいサービスやプロダクトを生み出すことを実現できる環境があります。さらに「バリューチェーン・イノベーター」の活動を通して、当社のエンジニアはコンサルティングスキルを身につけることもできます。技術だけではない付加価値が身につくことによって新たな価値を創り出すことにもつながります。

小出 多様なエンジニアがいるのは、VSN様の大きな強みだと思います。その多様性を活かし、大きな化学反応を起こせる企業であることが非常に重要です。今後も共にイノベーションを起こし続ける企業、そして世の中に必要とされる企業であり続けましょう。

  • ※1
    プロボノ…各分野の専門家が、職業上持っている知識や経験を活かして社会貢献するボランティア活動のこと。
  • ※2
    Chatter(チャター)…セールスフォース・ドットコム社が提供する、コラボレーションを加速する企業向けのSNSサービス。

小出 伸一(こいで・しんいち)さん プロフィール

株式会社セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 CEO

1981年日本アイ・ビー・エム入社。ハードウェア、アウトソーシング、テクニカルサービス、ファイナンシャルサービスの各事業の責任者を務め、2002年には取締役に就任。日本アイ・ビー・エムに24年間在籍後、ソフトバンクテレコム(旧: 日本テレコム)に入社、副社長兼COOに就任。2007年より7年間、日本ヒューレット・パッカード代表取締役社長執行役員として、同社のハードウェア、ソフトウェア、サービスの各事業ならびに全業務を統括。
2014年4月より、株式会社セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)に就任。

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