特別対談

意志を貫くことで
歴史的イノベーションは創られてきた

登山家 栗城 史多さん

VOL.05

今回のお相手

登山家

栗城 史多さんプロフィール

「挑戦」とは「変化すること」。失敗することには成功と同様の価値がある

川崎

誰も成し得ていない挑戦を続けてこられた中で、これまでに失ったものも大きかったかと思います。それでもご自身を突き動かし続けている栗城さんの想いを聞かせてください。

栗城

大学三年生で初めて北米大陸最高峰のマッキンリーに挑戦した時、聞き飽きるほど「間違いなく失敗する」「悪いことは言わない。やめておけ」という否定的な意見ばかりでしたが、「マッキンリーに挑戦したことがあるのですか?」と訊くと、経験のある人は誰もいませんでした。
世の中には挑戦する前から「出来ない」と自らブレーキをかけてしまいがちです。
講演の場で子供たちに夢を語ってもらうと、親御さんや先生が、「そんなの出来ないからやめなさい」「今の成績では無理」と諭す場面に出会ったりもします。子供の頃から挑戦する機会が奪われているのはとても残念です。
今は成功事例ばかりが注目されがちですが、いずれも裏側には多くの「失敗」や「挫折」があります。

全ての人たちに“限界”という幻想を取り払ってほしい、という想いで私自身、今も挑戦を続けています。

川崎

困難であるからこそ、挑戦する意味や価値が生まれますね。
登山と会社経営ではフィールドが大きく異なりますが、我々VSNも「エンジニアリング」と「コンサルティング」を組み合わせたこれまでに存在していなかったサービスを、五年ほど前に掲げました。当初は、栗城さんと同様に否定的な声は多く、さらには仲間(社員)からの反対意見も少なくありませんでした。
しかし、諦めずに続けてきたことで、賛同いただける声は確実に増えてきています。
やはり同じようにさまざまな失敗もありましたが、その経験からは成功することと同じぐらいに学び得たものがありました。

栗城

「挑戦」することは決して大きなことでなく「変化し続けること」であって、小さなことの積み重ねだと思うんです。
木に例えるなら「根っこ」でしょうか。
「根っこ」であり「種」でもあって、最初は自然にスクスク成長していきます。
途中で何かダメなことがあっても、そこから枝が分かれ、またその先にダメでもさらに枝分かれして少しずつその道は伸びていく。
大切なのは、「諦めない努力」。諦めずに継続すれば枝や幹は太くなっていきますが、それを止めてしまえば木は成長せずに、いずれ全体が枯れていってしまう。

挑戦することとは、そういう地道なものだと私は考えています。

大切なのは「貫く」意志の強さ。多くの成功者は批判の声をすべて糧にしてきた

川崎

新たな取り組みにはとかく賛否が伴うものだと思います。 栗城さんの挑戦に共感し感銘を受け、多くの方々が声援を贈る一方で批判の声があるのも事実だと思います。それらの意見をどう捉えていますか?

栗城

批判はむしろ、良いことだと思っています。歓迎していますし、ありがたい。
日本国民全員から応援されるなんて逆にちょっとおかしいじゃないですか(笑)。
批判されればされるほど、そういった方々に「栗城、ついにやったんだな」と思ってもらえるいい機会だと捉えています。
人は誰にでも好き・嫌いがあり、現在のようなネット社会ではそれが簡単に表面化しやすいので批判の声は気にしていません。

川崎

我々の新たなサービスも批判の声を気にせず、ただ迷わずに貫いて前に進んできたという自負があります。
一度伝えて理解してもらえなければ二度・三度でも。それでもダメなら何度でも繰り返し。
強い志を持って最初に動き始めた頃は、ほとんど何も無い状態でしたが、次々に色んなところで火が灯り、さらにそこから“うねり”のようなものが生まれることを経験してきました。
「批判意見が多過ぎるからやめよう」と誰かが言い出していたら、今のVSNは存在していないと思います。

栗城

世界中でイノベーションをこれまでに起こしてきた偉人、例えば松下 幸之助さんやスティーブ・ジョブズさんも、共に数えきれない失敗を経験しているし、批判されたことも多々あったと思います。
共通していることは“貫いた人”なんですよね。貫くことってすごく重要ですよね。

川崎

VSNは社員の平均年齢がちょうど30歳ぐらいで比較的若い社員が多い会社なのですが、若い世代の方々は何でも上手にそつなくこなしてしまう反面、思考がドライというか、リスクが伴うような挑戦を自ら避けたがる傾向を感じます。
栗城さんもさまざまな企業や学校等で講演される機会があると思いますが、実際、世代によって何か差を感じることはありますか?

栗城

何度も私の講演会に足を運んでくださる車椅子の女性は、夢が「サーフィンをすること」。スゴい挑戦ですよね。
ある日、その方から海でサーフボードに乗っている写真を見せていただいた時はとても驚きました。

一方、若い世代の方々は確かに冷めている印象も受けますが、ひとたび火が灯くと、そこからは燃えやすいと思います。
スマートフォンで多くの情報が簡単に手に入るような環境の中で外からの情報ばかりと向き合い、それによって自身と向き合う時間が少なく、自分が“何なのかが分からないもの”になってしまい、迷走してしまうこともあるのではないでしょうか。

川崎

VSNは「人財(ヒューマンキャピタル)の創造と輩出を通じて、人と社会の歓びと可能性の最大化を追求する。」という企業理念を掲げていますが、どうしたら若い世代やまだ明確な目標を持てていない社員に夢を持ってもらえるのか? どうしたら火が灯るのか? を経営者としては常に考えていますし、この理念を実現することが私の絶対に果たさなければならない使命です。

栗城

素晴らしい企業理念ですね。
現在、日本の平均寿命は男女ともにほぼ右肩上がりで延びています。
今の若い方々には60歳=定年、といった概念はもう存在しなくなります。
そんな彼ら彼女らも次のステージに向け、遅かれ早かれ自身を形成していく必要があるので、早い段階から「自分は何のために生きるのか」「何のために命を果たすのか」について考えることを積み重ねるのも大切ですね。

シンプルに「言葉にする」「応援し合うこと」で人の想いは変えられる

栗城

限界を取り払って挑戦し続ける、という話に戻しますが、少しだけ哲学的な話になるんですけど、いわゆる「身体性」は限界を超える力があると思っています。
人間が脳で判断しているのは実は二の次で、本当は先に身体が反応するんです。例えば登山中、崖から落ちそうになれば、考える前に手が反応して何かを掴みますよね。その後に脳が危険を感知すると聞いたことがあります。
登山を続けていると自分でもそれをよく感じます。

もう一つはとてもシンプルなのですが、仲間同士が「言葉にする」「応援し合う」機会って大事ですよね。
先ほどもお話しましたが、初めてマッキンリーの頂を目指した時、絶望的になるぐらい全員から猛反対されました。
その時、父親から電話で一言「お前を信じてるから」と言われて、父親のために絶対に生きて帰ってこようと自分に火が灯きました。
あの時、父親からも「止めておけ」と言われていたらきっと、登ることを断念していましたし、今の自分はなかったかもしれません。

川崎

応援し合う関係性や文化は会社にとっても個人にとっても、「挑戦」や「変化」をもたらす大事な要素ですね。 私自身も父親から学んだことがあります。社員に向けて話したこともありますが、「儲ける(もうける)」という字は“信”じる“者”と書く、という話です。お互いが信じ合って初めて儲けを生み出す訳で、「お前は会社・理念・仲間を信じているのか? 自分が信じてないものをお客さまに提供できるだろうか。まずは信じてみろ。」と。
その言葉を受け止め、実践を続けました。「そんなサービス、必要ない」と何度お客さまに言われても自信を持って説明を続けると、その心が伝わるんです。それがお客さまとの信頼構築につながりビジネスマンとしての大きな成長へと繋がりました。父からの応援が、私を「挑戦」へと動かしたのです。

栗城

同じ「挑戦」を続けていく者同士、限界の壁を常に破壊していきながら、多くの人に伝わるメッセージを発信していくことができる存在になるよう、この先も頑張りたいと思います。
またお会いできる日を楽しみにしています。

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登山家

栗城 史多(くりき のぶかず)さん

1982年北海道生まれ。登山家。大学山岳部に入部してから登山を始め、6大陸の最高峰を登る。その後、8000m峰4座を単独・無酸素登頂。エベレストには登山隊の多い春ではなく、気象条件の厳しい秋に5度挑戦。見えない山を登る全ての人達と、冒険を共有するインターネット生中継登山を行う。2012年秋のエベレスト西稜で両手・両足・鼻が凍傷になり、手の指9本の大部分を失うも、2014年7月にはブロードピーク8,047mに単独・無酸素で登頂し、見事復帰を果たした。2016年秋には、エベレストに6度目の挑戦を行う予定。 その活動が口コミで広がり、年間70本の講演を全国各地の企業や学校で行う。近著に「弱者の勇気 -小さな勇気を積み重ねることで世界は変わる-」(学研パブリッシング)。