焦点や絞りが自動化され、手ぶれ補正が付いた最近のデジタルカメラを用いれば、鮮やかな写真を撮ることはそれほど難しいことではありません。 深く考えずにカメラのシャッターを押すだけでよいのです。 でも、野鳥撮影の場合は、周囲の環境を把握し、右脳を使わないと鳥の色や表情がフレーム内に写せないのです。 よくあることなのですが、飛翔する野鳥はボケボケ、流氷の下にダイブする水鳥はフレームの外、可愛い白鳥は逆光で瞳が見えない、これらはよくあることなのです。 それは、悲しいことに我々が周囲の自然環境を読み取れなかったならなのです。
アリュートやイヌイットならば、瞬時に読み取れる自然の状況を、現代人はまったく気づきません。 羅臼沖の船上、気温マイナス20 度、揺れる足元という悪条件は、いい訳にはなりません。 中世の日本には花鳥風月という自然の美しさ、風流を称えた言葉がありました。 これは左脳ではなく、右脳を大きく働かせる業なのですが、悲しいことに現代の我々には、風を感じ、鳥のさえずりを聴き、月を眺める余裕すらなくなっています。 いや、たぶん、右脳の機能的な萎縮は、十代の若年から始まっているのかもしれません。 負荷の大きな左脳と対照的に萎縮する右脳、このディスクレパンシー(差)が、実は「出社拒否」の背景に横たわっているのかもしれません。 会社を退職後は、自然と向き合って生活しようと思っている貴方、右脳が萎縮すれば、感性を取りもどすことは難しく、楽しいはずの余暇の時間は、無常にも空回りすることをご存知でしょうか? これを防止するには、若い時期から自然に溶け込み、生物、物理、化学、地学など小さな事にも大いに興味を抱くことです。
今回の話は日頃から仕事でパソコンに向かいストレスを溜め込んでいるあなたにとって、「目から鱗」の話でしょう。
自然環境を読み取るための常日頃のトレーニングを導くための糸口を、ここに簡単に紹介します。 具体的な話題を展開するため、次の問にお答え下さい。
2008 年2 月某日、天気:晴 時間:午前10 時20 分、位置:相泊(あいどまり)沖の船上、気温:マイナス20 度、貴方はカメラ(設定:焦点距離35mm「35mm フィルム換算」、1/500、F4)を持っています、シャッターを押す貴方は視野から何を読み取ることができたか? 瞬時にお答え下さい。
問1 太陽の位置
問2 写真での東西南北
問3 2 月上旬、下旬、どっち?
問4 風の向き、強さ
問5 潮、うねり
問6 鳥類相は(視野にはどの鳥が不在)?
問7 上昇気流は発達している?
問8 遠方の流氷は高さがある?
問の写真 2008 年2 月 午前10 時20 分、相泊沖
問の写真 水平線(右)の拡大写真
瞬時に全問を答えられれば、貴方の目や耳は、アリュートやイヌイットと同じレベルです。一問も正解しない人=あなたは一般的な日本人、右脳は、すでに萎縮が始まっています!
解答と解説
答1. オジロワシの影より写真の右側より仰角45 度ぐらいに太陽があります。
答2. 太陽の方向より、写真の左側、半島の中間ぐらいが北となります。正確には、日本標準時間(東経135 度)と相泊港(北緯:44 度11 分6 秒 東経:145度19 分42 秒)の経度の差は、約10 度差、360 度で24 時間、つまり15 度で60 分の時間差に相当しますから、相泊沖の南中は、11 時20 分、つまり現在時刻(影)より15度(60 分)右(時計回り)が北、おそらく半島の先端あたりです。
答3. 流氷が疎で、高さが無く、テーブル状なのは、羅臼沖では流氷の初めの頃、2 月上旬と思われます。
答4. 身の危険に備えて、海鳥の多くは、直ぐに飛び立てる体勢を取っています。 飛行機もそうですが、風に向かって離陸した方が飛翔しやすいので、海鳥の向いている方角が風の吹いている方角なのです。 これって、アリュ-トやイヌイットの世界では常識です。 風は山並みの雲が上に成長していませんので、比較的強い風が、ほぼ北北西より吹いていると読み取れます。
海鳥は無意識に風上を向く
答5. 流氷が来ると波やうねりがなくなり、海が静かになると言われますが、それは知床半島の北側(紋別・網走・ウトロ)の話で、流氷の密度が疎な羅臼沖は、日によってうねり(参照 動画像)があります。 しかし、写真の海面は平坦ですので、うねりは無いと判断できます。表層の流れは、これから正確に判断できませんが、近傍の流氷が傾斜しており、ローテーションの力が加わっています。たぶん、手前から遠方に少し押される(海流が風の方向と逆行する時間帯が比較的短い時間にあった)と思いますので、船が海流に流されていれば、氷上のオオワシに徐々に接近するので、飛翔撮影後、オオワシの顔の近接写真を撮る順番が良いと思います。
海流と風は流氷にローテーション、競り上がりをもたらす
答6. 氷の上に、獲物を横取りする嫌われ者、カラスが居ませんね。 カラスは、知床の森をねぐらにし、沿岸の流氷上では散見できますが、ここまで飛んで来ていません。船はかなり沖に出ていることが推定されます。実際、相泊漁港の沖合い4kmぐらいです。
答7. 猛禽類は、滑空能力にたけています。上昇気流を翼で捕らえ、尾翼を微妙に動かしながら、焚き火のような小さな気流ですら、オオワシは径20mぐらいの小さな円を描きながらスパイラルに上がっていきます。 高性能のグライダーが径500m ぐらいですから、その滑空能力はずば抜けています。写真では、太陽の熱により山の南側斜面に上昇気流が発生し、雲が発生しています。しかし、季節風が強く、夏のよう入道雲には成長していません。洋上にある雲の輪郭もボケていて、おそらく上昇気流を伴なっていません(雲の辺縁がシャープなものは、出来た時期が新しく、上昇気流を伴なっています)。森に居るオオワシがここまで高い空を「滑空する」ことは難しく、飛翔する場合は、エネルギー消費の激しい低空を漕いで来ないといけません。つまり飛翔するオオワシを狙う場合は、森から来るオオワシはほとんど居ないので、近傍のオオワシだけに注意を注げばよいことになります。
夏場よく見られる入道雲(左)、季節風により雲が飛ばされている(右)
答8.この異常に気づいたとしたら、貴方は、アリュートやイヌイットの目を持っているか、あるいは気象予や物理学の高い知識レベルがあります。詳細は長くなるので、次回、説明させて頂きます。 写真をよく見ると2,3km 先に開いた水面があり、それより遠方の流氷の高さは10mもないはずなので、この見え方はおかしいと気づかないといけません。 気温マイナス20 度、水温マイナス1.8 度以上、そう、ここでは光学的な伝播異常を疑います。 今回は、イヌイットの目、アリュートの耳を持って、流氷の花鳥風月の読み方をご紹介しました。 このような読みは現代人には、萎縮しています。マニアックではなく、昔ならば誰でも無意識に把握できた能力なのです。日頃からさまざまな自然現象を認識することをトレーニングし、それを統合する右脳を活性化させることにより、飛翔するオオワシやダイブするホオジロガモを最適なフレームに入れ込むことができるようになります。
頬白鴨 【Bucephala clangula】 英名Golden eye ユーラシア大陸で繁殖し、冬の間、飛来する渡り鳥。目が黄色(黄金色)で潜水を得意とします。金属光沢のあるグリーンの頭(頭頂が尖った形)が特徴です。知床半島の港の常連客で、2 月ごろから求愛行動を見せます。
凍結しない水面を泳ぐホオジロガモのオス(松法漁港 2008 年2 月)
捕食のため頻繁に氷結の下をダイブするホオジロガモのオス(松法漁港 2008 年2 月)
求愛ディスプレーをするオス(松法漁港 2008 年2 月)
http://www.salongo.jp/
毎年、プロカメラマン井村淳先生と行く撮影ツアー(北海道、ガラパゴス、アフリカなど)を企画している。 井村淳先生は、最適なカメラワーク、撮影条件、写真の選択を参加者に丁寧に教えてくださいます。